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白内障


加齢で誰にでも起こる白内障

白内障は、ほとんど全ての方が加齢とともに発症する病気です。この記事で白内障についての正確な知識を持ち、備えていただくきっかけになれば幸いです。

80歳代で発症する確率は100%

白内障を発症する確率は60歳代で70%、70歳代で90%、80歳代で100%です。現在日本人の平均寿命は男性81才、女性87才ですので、ほとんど全ての人が生きている間に白内障になります。この中には軽度の白内障の方も含まれていて、全ての方が手術を必要とするわけではありません。ちなみに当院で白内障の手術を受ける患者さんの平均年齢は75才です。

白内障の症状

白内障とは、目の中のレンズの役割をしている水晶体が濁ってしまい、光が通りにくくなり、見えにくくなる病気です。主な症状は、ぼやける、かすむ、まぶしい、視界が暗く感じる、視力が落ちる、だぶって見えるなどです。

Alcom わかる!白内障より引用

Alcom わかる!白内障より引用

Alcom わかる!白内障より引用


白内障の主な原因

最も多い原因は加齢によるものです。また糖尿病、アトピー性皮膚炎、炎症、外傷、ステロイド剤の使用などがあると年齢に比して早く進む可能性があります。その他、妊娠初期に風疹に初感染すると出生児に先天白内障が生じることがあります。

白内障の治療

混濁した水晶体を透明にする薬や食品はありません。また眼鏡で視力を改善させることは出来ません。現在のところ唯一の治療法は手術です。通常の手術は黒目と白目の境付近にナイフで幅2-3mm程度の切開創を作成し、そこから眼内に器具を入れ、超音波の振動で水晶体を細かく砕いて吸い取ります。この際水晶体の周囲の皮を袋状に残しておき、これを土台にしてプラスチック製の眼内レンズを挿入し固定します。現在日本では年間約160万件行われています。最近ではレーザーを用いて切開を行う手術法も出てきています。

Alcom わかる!白内障より引用

白内障手術の合併症

白内障手術は進歩をして非常に安全になっていますが、合併症を生じてしまうことがあります。眼周囲にいる細菌が傷口から眼内に入り感染を起こしてしまう可能性が2000-3000人に1人程度あります。その他レンズを固定する水晶体の皮が損傷し眼内レンズを入れることが出来なかったり、角膜症や出血や他の眼病を生じたりすることがあります。このような場合には手術前よりも視力が下がってしまうこともあります。このため必要性が生じてから手術を受けるべきです。
眼内レンズの土台となる後嚢が破損したり、後嚢を支える「チン小帯」という筋が切れると、眼内レンズを入れることが出来ません。その場合、その手術でレンズは入れずに、眼鏡やコンタクトレンズでピントを合わせたり、再手術をすることなります。その他、体に潜む細菌による感染、角膜が弱くなる角膜症、出血などが合併症としてあげられます。

手術後に発症する後発白内障

起こる可能性の高い合併症として後発白内障があります。これは眼内レンズを固定するために残した水晶体の皮が時を経ると濁ってきて、光を通過しづらくなり、見えにくくなるものです。これに対してレーザー光で濁った部分に穴をあけて、光の通りを良くすることで改善されます。術直後で出る場合もあれば、10年経過しても起こらない場合もあります。

手術をすると、老眼状態に

保険適応の眼内レンズは焦点を合わせることの出来る距離は1ヶ所です。遠方に焦点を合わせた場合は手元の物は老眼鏡を掛けないとぼやけてしまいます。手元に焦点を合わせた場合には、遠方の物は近視用眼鏡を掛けないとぼやけてしまいます。

複数にピントが合う多焦点眼内レンズ

近年、遠方(5m以上)と読書をする位置(30cm)、パソコンを見る位置(70cm)、カーナビを見る位置(1m)など、複数の距離に焦点を合わせたり、焦点が合う位置を広くしたりすることが可能な多焦点眼内レンズが出てきています。利点は眼鏡を使用しなくても生活をしやすくなることです。一方で欠点は光のまわりに輪がかかってみえたり、光のぎらつきがまぶしく感じたり、ピントが合っていても白みがかった景色に見えたりする可能性があります。また多焦点眼内レンズは保険適応外です。現在日本では約5%の普及率です。

単焦点レンズ(遠方)

単焦点レンズ(近方)

多焦点レンズ

Alcom わかる!白内障より引用

高齢化で増える問題

少し切り口を変えて、最近増えている事例についてお話します。事例とする患者さんは80歳代の女性です。数年前から目が見えづらそうでしたが、本人の訴えがなないため、眼科受診をしていませんでした。最近目が見えてないことに家族が気づいてから初めて眼科を受診しました。視力は眼鏡をかけても右が0.2、左は0.01でした。高度に進行した白内障を認めました。他に認知症と狭心症を患っていました。

認知症患者さんの手術リスク

認知症の方は症状を訴えないことがあります。また検査や治療に抵抗してしまうこともあります。白内障手術は顕微鏡下で行う大変細かい手術です。手術中に動き出してしまい、最後まで終えることが出来ずに中断すると、失明する可能性もあります。前記の患者さんは手術中動かずにいることは困難との判断で、通常の局所麻酔ではなく、全身麻酔での手術を検討しました。しかし、全身麻酔は心臓や肺に負担がかかるため、内科の担当医からは全身麻酔は命にかかわる危険性があると判断されました。この方は最終的に手術を受けることは出来ずに、一生を見えづらいまま生活しなくてはいけなくなりました。介護をされる家族の負担も相当大きくなることが予想されます。

身体の不調で手術を受けられない

一人では寝たきりになっていて病院に通えなかったり、指先が不自由で手術に必要な点眼薬をさすことができなかったりするうえに、世話をしてくれる方が周りにいないと手術が受けられないこともあります。また背骨が曲がってしまって手術に必要な仰向けの体位を取ることが出来ずに受けられなくなってしまうこともあります。この様になる前に、ある程度の症状が出た時点で早めに治療を受けておいた方が良いでしょう。

治療を先延ばしにしないように

白内障が高度に進行すると、手術の難易度が上がり手術時間も長くなりますし、合併症が生じる可能性が高くなります。人間が得る情報の8割は視覚からと言われており、視力が落ちることで生活の質が落ちてしまいます。移動にタクシーを使ったり、介護が必要になったり、生活コストが上がってしまいます。また交通事故や転倒骨折のリスクが高くなったり、認知症、うつ、神経症が悪化したりする可能性も指摘されています。その他白内障があると緑内障、黄斑変性症などの他の眼病の発見が遅れてしまい、治療が手遅れになってしまう可能性もあります。

年を取るとかかりやすい目の病気

白内障は前述の通りですが、緑内障は40歳以上の20人に1人が発病し、失明原因の第1位となっています。糖尿病網膜症は、成人の30人に1人が発病し、年間3000人が失明しています。他にも血管が詰まってしまう病気が40歳以上の50人に1人が発病しています。

まずはセルフチェックから

なかなか眼科を受診することができない方はセルフチェックをしてみましょう。両目で物を見ている状態ですと、片目が病気になっていても気が付きにくいことが多いです。そこで、片目ずつ、見え方をチェックしてみましょう。

① 見にくい距離(遠く、近く、両方)があるか
② 眼鏡をかけて見えるか、見えないか
③ 歪みはないか
④ 視野検査

見え方の歪みチェック(アムスラー検査)

視野検査

セルフチェックでは正確な評価は難しいですが、異常を発見するきっかけになりますので、ぜひ試してみてください。そして、何かおかしいと思ったら眼科を受診して欲しいことを、繰り返しお伝えします。

さいごに

こうして記事を読んでくださる方は、健康に対する意識が強く、病気になった時にすぐ受診しようとしてくれる人が多いでしょう。しかし、病院が嫌い、病気が見つかるのが怖い、手術が怖いなど、さまざまな要因で受診を先送りにしてしまう方も多くいらっしゃいます。後回しにするほど、大きな負担を要することになることがありますので、ご家族やご友人に、そうした方がいたら、健康に関心が強い皆さんから説得していただきたいです。早期発見、早期治療は何よりも優ります。一人でも多くの方が見えやすく、快適な生活を送れるよう、今後も取り組んでいきますので、よろしくお願いいたします。