遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは
Hereditary Breast and Ovarian Cancer Syndrome
遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)とは、がんの発生を抑制している遺伝子(BRCA1およびBRCA2)に生まれつき病的な多様性(バリアント)があり、乳がんや卵巣がんをはじめとしたがんが発症し易くなるというものです。他にも膵臓がん・前立腺がん・悪性黒色腫の罹患リスクが上がり、近年では胆道がん・食道がん・胃がんの罹患リスクも上がるという報告があります。この遺伝子のバリアントは、親から子へ50%の確率で遺伝します。
日本人乳がん症例の約5.7%が遺伝性乳がんで、そのうちの約7割がこの遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)であるといわれています。残りの約3割についてはBRCA1/2以外の遺伝子の病的バリアントが原因となります(Nat Commun 9, 4083. 2018)。
日本人乳がん症例の約5.7%が遺伝性乳がんで、そのうちの約7割がこの遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)であるといわれています。残りの約3割についてはBRCA1/2以外の遺伝子の病的バリアントが原因となります(Nat Commun 9, 4083. 2018)。
発症率
日本人女性全体 | 遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC) | ||
BRCA1病的バリアント保持者 | BRCA2病的バリアント保持者 | ||
乳がん | 11.2% | 72% | 69% |
卵巣がん | 1.6% | 44% | 17% |
JAMA. 2017;317(23):2402-2416
HBOCの診断
BRCA1/2 遺伝学的検査(BRACAnalysis®)
採血を行い、BRCA1およびBRCA2にバリアントがあるかどうかを調べる検査
【HBOC診断目的として保険適用になる条件】
・45歳以下発症の乳がん
・60歳以下発症のトリプルネガティブ(ホルモン受容体陰性・HER2陰性)乳がん
・両側または片側に2個以上の原発性乳がんを有する
・男性乳がん
・乳がん診断時に、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんのいずれかを合併している
・血縁者(三親等以内)に乳がん・卵巣がん・膵臓がん患者の家族歴を有する乳がん患者
【HBOC診断目的として保険適用になる条件】
・45歳以下発症の乳がん
・60歳以下発症のトリプルネガティブ(ホルモン受容体陰性・HER2陰性)乳がん
・両側または片側に2個以上の原発性乳がんを有する
・男性乳がん
・乳がん診断時に、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんのいずれかを合併している
・血縁者(三親等以内)に乳がん・卵巣がん・膵臓がん患者の家族歴を有する乳がん患者
当院におけるBRCA1/2 遺伝学的検査による診断実績
対象期間:2020年4月~2024年10月
乳がん手術件数 | 399件 |
うち検査実施件数 | 67件 |
うちHBOC件数 | 8件 |
検査実施件数は手術件数の16.8%、さらにそのうちHBOCと診断されたのは11.9%(手術件数のうち2%)でした。
遺伝カウンセリング
HBOCの検査を実施するにあたっては、遺伝カウンセリングを行います。患者さんの状況に基づき正確な情報提供を行い、疾患の遺伝的な影響を理解できるよう、患者さんが⾃律的な意思決定が⾏えるよう、医学・⼼理・社会的援助を⾏います。
HBOCと診断された場合、親・兄妹・子供など血縁者も同様にHBOCである可能性が高く、つまりはがんを発症する可能性が通常よりも高いということになります。そのため、「HBOCと診断された事実をどのように家族に伝えるか」というのは難しい問題です。遺伝カウンセリングではそういった場合の伝え方を医療者と一緒に考える、家族と一緒にカウンセリングを受診するということができます。
HBOCと診断された場合、親・兄妹・子供など血縁者も同様にHBOCである可能性が高く、つまりはがんを発症する可能性が通常よりも高いということになります。そのため、「HBOCと診断された事実をどのように家族に伝えるか」というのは難しい問題です。遺伝カウンセリングではそういった場合の伝え方を医療者と一緒に考える、家族と一緒にカウンセリングを受診するということができます。
南部病院の「遺伝カウンセリング外来」
外来の内容
- 「BRCA1/2 遺伝学的検査」の実施にかかわるカウンセリング(当院乳腺外科受診中の乳がん患者さん)
- 保険適用外の方(HBOCの方の血縁者)に対する遺伝カウンセリング・遺伝学的検査(自費)
横浜市による保険適用外の方の助成制度
横浜市では、保険適用外の方を対象として、費用の一部を助成する制度があります。
【助成の対象となる方】
申請時に横浜市の住民基本台帳に記載されており、今まで本助成を申請したことがなく、下記すべてに該当
・令和6年4月1日以降に遺伝カウンセリングやBRCA1/2に関する遺伝学的検査を受けた方
・両親または子どもまたはきょうだいが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)である方
・遺伝カウンセリング及び遺伝学的検査が保険適用外である方
・遺伝カウンセリング及び遺伝学的検査に係る費用の助成申請の場合は、
遺伝学的検査実施日に18歳以上69歳以下の方
・遺伝カウンセリングに要する費用のみ助成申請の場合は、
遺伝カウンセリング実施日に18歳以上69歳以下の方
【助成費用・申請方法など】
横浜市のホームページをご確認ください
https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/iryo/gan/taisaku/hbockensa.html
【助成の対象となる方】
申請時に横浜市の住民基本台帳に記載されており、今まで本助成を申請したことがなく、下記すべてに該当
・令和6年4月1日以降に遺伝カウンセリングやBRCA1/2に関する遺伝学的検査を受けた方
・両親または子どもまたはきょうだいが遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)である方
・遺伝カウンセリング及び遺伝学的検査が保険適用外である方
・遺伝カウンセリング及び遺伝学的検査に係る費用の助成申請の場合は、
遺伝学的検査実施日に18歳以上69歳以下の方
・遺伝カウンセリングに要する費用のみ助成申請の場合は、
遺伝カウンセリング実施日に18歳以上69歳以下の方
【助成費用・申請方法など】
横浜市のホームページをご確認ください
https://www.city.yokohama.lg.jp/kenko-iryo-fukushi/kenko-iryo/iryo/gan/taisaku/hbockensa.html
予約方法
現在院内調整中
もしも自分がHBOCと診断されたら
検診・診療
18歳~ | 自己乳房検診の訓練と教育、月に一度の定期的自己乳房検診を開始 |
25歳~ | 6~12 カ月ごとの医師による乳房視触診を開始 |
25~29歳 | 年に一度のMRI (造影MRI 検査が望ましい) (MRI が利用できない場合マンモグラフィ) |
30~75歳 | 年に一度のマンモグラフィと乳房造影MRI を開始 |
75歳~ | 検診対応は個々の状況に応じて実施 |
リスク低減乳房切除術
HBOC患者は、乳がん発症リスクが高いため、発症前に予防を目的として切除を行うというものです。乳がん発症リスクは低減しますが、全生存については他因子も関与しており、明らかな死亡率低下のデータは確立していないのが現状です。
【対象】HBOC患者さんのうち…
① 乳がん手術実施予定または手術実施済みで、対側の予防切除を希望(保険適用)
② 卵巣がん手術後で、予防切除を希望(保険適用)
③ 乳がん・卵巣がん未発症で、予防切除を希望(自費)
【対象】HBOC患者さんのうち…
① 乳がん手術実施予定または手術実施済みで、対側の予防切除を希望(保険適用)
② 卵巣がん手術後で、予防切除を希望(保険適用)
③ 乳がん・卵巣がん未発症で、予防切除を希望(自費)
さいごに
日本人女性乳癌の約4.2%(25人に1人)がHBOCといわれています。しかしながら遺伝学的検査をすること自体が推奨されているわけではありません。ご本人の価値観などを踏まえ、ご本人にとって最善の方針を遺伝カウンセリングの場で話しあいます。
乳腺外科 主任部長 吉田 達也
(乳腺指導医、臨床遺伝専門医、遺伝性腫瘍専門医)
(乳腺指導医、臨床遺伝専門医、遺伝性腫瘍専門医)