グローバルナビゲーションへ

本文へ

ローカルナビゲーションへ

フッターへ


ホーム >  診療科・部門 >  脳神経外科 >  神経内視鏡手術

神経内視鏡手術


神経内視鏡手術とは

 「頭の手術で胃カメラを使えるの?」と疑問に思う方が多いと思います。光学系の進歩により、より細径で高解像度の内視鏡が開発され、脳神経外科でも内視鏡手術が可能となりました。神経内視鏡には胃カメラと同じ構造でくねくね曲がる軟性鏡と直線状で曲がらない硬性鏡があります。(図1)2種類の内視鏡を疾患ごとに使い分け、もしくは併用して手術を行います。「神経内視鏡手術」は頭蓋骨に大きな穴を開ける「開頭術」とは違い「穿頭術」で行うため、頭蓋骨に開ける穴もワンコイン程度で済みます。

神経内視鏡手術の対象は

 脳内血腫・脳腫瘍・水頭症・頭蓋内嚢胞(ずがいないのうほう)性(せい)疾患(しっかん)・トルコ鞍(あん)部周辺病変(下垂体腺腫・髄膜腫・頭蓋咽頭腫・脊索腫など)など多岐にわたります。このうち脳内血腫・水頭症・トルコ鞍部周辺病変は保険収載されており、今後神経内視鏡手術が第一選択になると思われます。

脳内血腫

 脳内血腫は、高血圧等が原因となり脳実質や脳室に出血する病気です。出血部位や血腫の大きさにもよりますが、麻痺や感覚障害、言語障害などが出現し、死亡率は75%とも言われます。
 血腫が小さいときは内科的に治療しますが、大きい血腫になると頭蓋内圧が亢進し、命に関わるため手術が必要です。これまでは開頭術で、頭蓋骨を大きく開けて、顕微鏡で手術を行いましたが、当院では2017年度から内視鏡手術を行っています。内視鏡手術は脳にシース(細い鞘上の管)を留置して、血腫を取り除く手術です。手術のイメージを図2に示します。

『内視鏡手術の利点』は、以下の3つが挙げられます。
①頭蓋骨に500円玉程度の穴を開ければ手術が可能。
②開頭が小さく皮膚切開が短くなる。 (図3)
③血腫到達までの時間が短く、手術時間が短縮される。

当院での治療成績の検討では内視鏡手術は開頭術よりも、下記のことがわかっています。
①手術時間が短縮(270分→130分) 
②術後、ベッドから離れてリハビリテーションを開始するまでの期間が短縮(15日→6日) 
③在院日数が短縮(62日→32日)
④退院時の生活自立度を示すmRSが改善する 

※mRSとは
脳卒中患者の日常生活機能自立度を評価するための指標

実際の手術例

こちらの患者さんは術前意識障害と重度の左麻痺を示していましたが、内視鏡手術後、意識清明で麻痺も完全に消失し、職場に復帰されました。(図4)

水頭症

 水頭症は、髄液の循環吸収障害により発症し、脳室などに異常に大量の髄液が貯留する病気です。水頭症には先天性水頭症、脳腫瘍やくも膜下出血により引き起こされる水頭症、さらに最近注目を集めている、認知症に近い症状がある特発性正常圧水頭症など多くの種類があります。治療は従来シャント手術主体でしたが、近年神経内視鏡による第三脳室底開窓術が広く行われています。

第三脳室底開窓術

 第三脳室底開窓術(図5)とは、第三脳室と脳底槽(橋前槽)に交通をつけて、障害された髄液循環路を再建する治療です。当院でも、中脳水道狭窄症などによる閉塞性水頭症に対して、内視鏡手術を積極的に行い良好な成績を得ています。
 閉塞性水頭症とは、脳室からくも膜下腔に至る髄液の循環経路に狭窄や閉塞が生じ、髄液が貯留して脳室が拡大するもので、中脳水道狭窄症や脳腫瘍などが原因となります。脳深部の第三脳室の底面にバルーンカテーテルを使って小孔を開けることで髄液の通り道を新たに設ける内視鏡手術です。従来の脳室腹腔シャント術に比べ、シャントチューブの体内留置や開腹することなく水頭症治療が可能で、患者さんの負担が少ない治療です。

実際の手術例

 図6は腫瘍による閉塞性水頭症の患者さんです。松果体は脳の深部にあり、この部位に発生した腫瘍を開頭手術で治療することは大変難しくなります。この患者さんは松果体部腫瘍が、中脳水道を塞いで閉塞性水頭症となり意識消失し救急搬送されました。ただちに神経内視鏡を用いて第三脳室底開窓を行い水頭症は解除されました。また、腫瘍も同時に摘出することで松果体嚢胞と診断できました。その後、患者さんは意識消失することもなくなり、社会復帰されております。

トルコ鞍(あん)部周辺病変

 頭蓋底を形成するトルコ鞍周辺には下垂体腺腫・髄膜腫・頭蓋咽頭腫・脊索腫などさまざまな病気が発生します。トルコ鞍の中には下垂体があり、下方には蝶形骨洞が存在します。鼻腔に大きく接するエリアになるため外科的治療の多くは鼻腔を経由する経鼻手術が行われます。(図7)  
 顕微鏡手術に比べ、内視鏡手術では観察できる範囲が格段に拡がり、画像も鮮明で、腫瘍摘出率は向上します。また、開頭術でしか手術できなかった鞍上部病変も内視鏡による経鼻手術が可能となりました。さらに、拡大法を用いると前頭蓋底から斜台までの病変に対応できます。

下垂体腺腫

 内分泌器官の中枢である下垂体に発生する良性腫瘍です。視神経・視交叉に近接して腫瘍が発生するため、腫瘍が大きくなると視力・視野障害が出現します。そのほかにも、無月経、乳汁分泌、末端肥大症などの内分泌症状で発症することもあります。
 当科では下垂体腫瘍を中心にトルコ鞍部周辺病変に対して、内視鏡による経鼻的手術法を導入しており、安全に低侵襲手術を受けていただくことが可能です。また、糖尿病・内分泌内科が介入し、内分泌症状の同時治療が可能です。

頭蓋咽頭腫(ずがいいんとうしゅ)

 胎生期頭蓋咽頭管遺残から発生する先天性腫瘍です。全摘出にて治癒が可能ですが、実際には周囲との癒着により摘出困難なことも多く、再発を繰り返すこともあります。また、発生母地(最初にがんが発生する場所(細胞))が下垂体茎なので開頭手術では視神経によって直接視ることができず処理できないことが多くありますが、内視鏡を用いた経鼻手術ではこの部分が観察しやすくなっており、腫瘍の取り残しが減りました。
 図8は以前開頭術を受けた頭蓋咽頭腫の患者さんです。ほぼ全摘出されましたが、発生母地の処理が出来なかったために術後半年で再発してしまいました。内視鏡を用いて経鼻的手術を行い、完全に摘出できました。術後2年経過しましたが、現在再発を疑う所見はありません。